最終更新日 2026年9月10日
2026年上半期の訪日インバウンド周りのニュースとして印象的だったのが、コロナ禍以来のマイナス成長でした。2026年1月から6月の訪日外客数は2,108万4,800人で、前年同期比2.0%減。前年同期を下回るのはコロナ禍の2021年以来5年ぶりです。中でも訪日中国人は205万8,200人と、前年同期比56.4%の大幅な減少となっています。政府による渡航自粛の呼びかけが主な要因とされています。
増えている「次はインドネシア」の相談
この落ち込みを受けて、当社への相談内容にも変化が出てきました。「中国からの団体ツアー客を扱っていたが、次はインドネシアを狙いたい」という趣旨の相談が、明らかに増えています。
多くの場合、その内容は「中国の旅行会社と関係を作り、団体ツアー客を送り込んでもらっていたのと同じやり方を、インドネシアの旅行会社相手にもやりたい」というものです。人口の多い国だから、同じやり方を移植すれば同じように成果が出るはずだ、という発想です。
この記事では、なぜこの発想がそのままでは通用しにくいのか、数字を整理しながらご説明します。
中国もすでに団体ツアー中心ではない
まず押さえておきたいのは、訪日中国人においても団体ツアーはすでに主流ではなかったという点です。2015年の数次ビザ発給要件緩和をきっかけに個人旅行へのシフトが進み、2017年には個人旅行の割合が団体旅行を上回りました。「中国=団体ツアー」というイメージは、実は数年前から実態とズレていたことになります。
訪日中国人959万人と訪日インドネシア人64万人の差
それでも中国関連のビジネスにおいて団体ツアー狙い撃ちの施策が成立していたのは、手法そのものが優れていたからではなく、母数が大きかったからだと考えられます。
| 訪日客数 | 出典 | |
|---|---|---|
| 中国(2019年ピーク) | 959万人 | JNTO 訪日外客数 |
| インドネシア(2025年) | 64万577人 | JNTO 訪日外客数 |
個人旅行が主流になった後の中国であっても、959万人のうち仮に1割が団体ツアー経由だったとすれば、96万人規模のビジネスになります。一部を切り出しても十分な規模が残るだけの母数が、中国にはありました。
一方でインドネシアの訪日客数は、2025年通年で64万577人です。2016年の約27万人から9年で2.4倍に伸びていますが、絶対数としては中国のピーク時の15分の1にも届きません。この母数の中からさらに一部の団体ツアー層だけを狙うとなると、事業として成立するだけの規模を確保するのは容易ではありません。
インドネシアはもともと個人旅行(FIT)が8割
もう一つ押さえておきたいのが、訪日インドネシア人の旅行スタイルです。日本政府観光局の資料によれば、個人手配(FIT)が全体の8割以上を占めています。この傾向は当社が以前まとめた記事でも確認しています。
つまりインドネシアの場合、母数自体が中国よりはるかに小さいうえに、そのうち団体ツアーを利用する層はさらに少数派ということになります。中国で機能していた施策を、規模も構造も異なる市場にそのまま持ち込もうとすると、狙うべきパイがほとんど残らない可能性が高いというのが実情であり現場感覚です。
旅行会社経由が機能するケース
旅行会社経由の施策がまったく意味を持たないわけではありません。ただし、対象はかなり絞られます。
訪日はもちろん海外旅行自体がほぼ初めてという層は、個人手配に不安を感じやすく、旅行会社を頼る傾向が残ります。訪日が初めてというだけでは個人手配を選ぶ人も依然として多いため、「訪日未経験」ではなく「海外旅行未経験に近い層」と捉えたほうが実態に近いでしょう。
もう一つ、旅行会社経由が機能しやすいのが企業の報奨旅行や社員旅行です。こうした大人数のオーダーメイド型ツアーは旅行会社に相談されるケースがほとんどで、旅行会社側も「大人数が入れるレストラン」や「安くて大量に宿泊できるホテル」を探しています。個人旅行が主流という市場構造の中でも、この2つは旅行会社経由の施策がまだ機能する領域です。
インドネシア人の訪日客に効く施策とは
母数の8割を占める個人旅行層に届けるには、旅行会社経由ではなく、実際に彼らが情報収集に使っているチャネルに乗る必要があります。日本政府観光局の資料によれば、旅行先の情報源はInstagramが87%、YouTubeが40%、TikTokが30%と、SNSが圧倒的な比重を占めています。ウェブサイトを訪れて比較検討するよりも、SNS上で見た投稿がそのまま旅行先の意思決定に直結している市場だと捉えたほうが実態に近いでしょう。
もう一つ見落とせないのが宗教的な背景です。インドネシアは人口の約9割がイスラム教徒とされており、訪日客の大半が非ムスリムである中国とは異なる配慮が必要になります。礼拝スペースやハラル対応の飲食店情報など、中国向けの施策をそのまま流用できない領域がここにもあります。
まとめ:インドネシアの訪日プロモーションは規模と構造から見る
訪日中国人が急減している今、代替市場としてインドネシアに目が向くのは自然な流れです。ただし、中国で機能していたやり方をそのまま持ち込めると考えるのは早計かもしれません。母数が中国ピーク時の15分の1に満たないうえ、その8割はもともと団体ツアーではなく個人旅行を選んでいるためです。
インドネシア市場で成果を出すには、SNS上での個人旅行者への訴求、報奨旅行・社員旅行や海外旅行未経験層に絞った旅行会社経由の施策、ムスリム比率9割という独自の事情への対応、この3つを切り分けて考える必要があります。
当社は2014年の設立以来インドネシア市場に特化し、現地に根ざした視点でこうした構造の違いを日々のプロモーション支援に反映してきました。中国からの切り替えをご検討中の事業者・自治体のご担当者は、まず母数から見直してみることをお勧めします。ご興味のある方はお気軽にご相談ください。
JAPASIANの訪日インバウンドサービス
インドネシア最大級の日本情報メディア「Japanese Station」を軸に、訪日プロモーションを…
本記事の統計データは執筆時点(2026年9月)の公表データに基づいています。最新の数値は各出典元にてご確認ください。

