最近インドネシアの化粧品について考える機会がありました。
まだまだ成長過程の国、ということで定量的な成長力もさることながら、
定性的な市場の中身が面白かったので備忘として記載します。
まずは定量的な市場規模。
矢野経済研究所が2014年6月に発表した
「ASEAN主要5ヶ国化粧品市場に関する調査結果(※)」によれば、
2013年度のインドネシア化粧品市場は小売りベースで2,690億円。
※5ヵ国=インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナム、マレーシア
当該調査サマリーではインドネシア個別の成長率には触れていませんが、
ASEAN主要5ヵ国で2012年から2013年の昨対比は110%とのこと。
過去5年に渡り毎年10%程度成長しています。
同じく矢野経済研究所が2014年10月に発表した「化粧品市場に関する調査結果 2014」によれば、
2013年度の日本国内化粧品市場は昨対比101.3%の2兆3,200億円(こちらはメーカー出荷ベース)。
日本と比較するとインドネシア市場はまだ10分の1程度の規模であり、
今後中流層の可処分所得が増えていく中で、化粧品市場が安定的に成長していくのは疑いがなさそうです。
そして定性的な情報です。
データの中身を見たり、現地女性人と話をする中で気になったのが、
「地方」「美白」「ハラール」というキーワードです。
■地方
少し古いですが2013年にニールセンが発表した調査データによれば、
化粧品市場は「地方がアツイ」ようです。
2013年上半期の昨対比において都市部成長率が9.4%だったのに対し、地方部では27.5%。
今まで市場がなかったところに市場ができているので、まぁ当り前といえば当たり前ですが、
それにしてもすごい伸び率です。
都市と地方では売れる製品の価格帯は異なるでしょうが、
それでも人口が多いので地方部市場もバカにならないですね。
蛇足ですがインドネシア女性は濃いめのメイク(thick makeup)を好むので消費量も多いはずです。
■美白
既出の矢野経済研究所レポートにも記載があり、実際に街中で体験するのが美白ブーム。
国が変わっても女性の価値観は変わらず、美しく白い肌への強い憧れが見受けられます。
またまた蛇足ですが、インドネシアでもコリアンコンテンツの影響力は強く、
テレビを見てると「え、この人韓国人?」と見まがうような
色白メイクのインドネシア女性が登場したりします。
まぁここまでは普通なのですが、面白いのは男性も美白に憧れている、ということ。
現地資本のコンビニエンスストア(主要客はもちろんインドネシア人)に行くと、
PONDS男性向け美白クリームのエントリーサイズ(数回使い切りver)が20,000IDR程度で売られています。
薬局でも積極的に販売中。
地肌が黒い分、我々日本男子よりも意識が高いのかもしれません。
インドネシアが美白男子で溢れる日も遠くはないかもしれない・・・。
全然関係ありませんが、元々肌が白い筆者としては、移住後の強い紫外線による「シミ」が悪化しているので
革新的なシミ消し製品を期待しています・・・。
■ハラール
そして最後に「ハラール」。
最近日本でも観光産業を中心に話題になることも多く、聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
イスラム法に則って合法的なものはハラールと呼ばれ、主に食品に対して用いられます。
直接的な食材だけでなく、調味料や保存料などでもハラールでない素材が使われていればNGです。
代表的なNG素材は「豚」と「アルコール」。
上述の通り主に食品に対して使われる考え方ですが、化粧品にも拡張した考え方が「ハラール化粧品」です。
そして、ここインドネシアでも「ハラール化粧品専門」のブランドが登場しており、成長しています。
代表的なブランドが「Wardah(ワルダー)」です。
Wardahは国外からも代表的なハラール化粧品メーカーとして認識されており、
過去5年間、平均成長率80%で業績を伸ばし続けています。
こちらも「地方がアツイ」話と同様、元々のマーケットが小さかったので成長率が著しい、という側面がありますが、
世界にまたがって話が展開される部分が面白い。
世界中のイスラムマーケットだけではなく、
「ハラール認証が取れれば安全性の証明になる」と非イスラム圏での可能性も注目されているようです(類推するに中国市場でしょう)。
そんなこんなで「超成長市場」と言われるハラール化粧品。
ただし、インドネシア国内の消費者意識とは少しギャップがあるようです。
以上の前提知識を持ち、インドネシア人ムスリム女性たちにヒアリングしてみましたが、
化粧品に対してはそこまで意識をしていない方が主流と感じました。
中には「化粧品にハラールは存在しない」と断言する人も。
返答の温度感はさておき、彼女らに共通する考え方は、
①ハラールとは食に関するもの
②つまり(彼・彼女らにとって)不純なものを自分の体に取り込まないこと
③自分の体に取り込んで、血や肉にしないこと
④化粧品は肌の上に付けるものだから大丈夫
ということであり、自由に化粧品を楽しんでいるようです。
注目の「ハラール化粧品市場」。
単に市場形成期だけの急成長なのか、今後も本当に安定的に伸びていくのか、は気になるところですね。
化粧品メーカーが東南アジア進出する際にもハラール対応すべきか否か、が論点になることも多いようです(対応には莫大な時間とお金が必要)。
あくまで筆者個人談ですが、ジャカルタの街・人の雰囲気を見る限り主流マーケットにはならないのでは、という気もします。
ハラール意識の高いマレーシア・中東含む全世界イスラムマーケットを狙うなら別ですが、
インドネシア国内、さらにジャカルタで生活するような可処分所得が高い層を狙うのであれば
化粧品のハラール対応は必要ないのかもしれません(※)。
※あくまで個人談。ハラール化粧品を愛用する消費者が一定層存在するのも事実であり、メーカーの戦略によって考え方が変わることはご留意ください。