訪日インバウンドプロモーションは言語対応だけでは届かないという話

海外への訪日インバウンドプロモーションにおいて、まず検討されるのが「多言語対応」でしょう。

ただ、情報発信という視点で考えた場合、言語対応だけではなかなか情報は届きません。

訪日インバウンドの話だけではなく、日本から海外へプロモーションする商品やサービスのすべてに通じる話だと思います。

思うところを少しまとめてみます。

海外へのプロモーションはリソースとの闘いである

当社はインドネシアに絞り込んでプロモーションを支援しておりますが、日本からご相談いただくお客様でインドネシアだけをターゲットとしているケースは稀です。

多くの場合はASEAN全体をターゲットとしており、その中で幾分かのリソースをインドネシアに投じられています。

 

海外でのプロモーションは一国だけで完了するものではなく、常に「広いターゲット」vs「限られたリソース」との闘いです。

 

特に「訪日インバウンドプロモーション」の場合、極論ですが地球全域がターゲットになり得ます。

ただ自社側のリソースは限られているため、まさか日本以外のすべての国を対象とするわけにもなりません。

そのため担当者は限られたリソースをどのように配分するか戦略を迫られます。

 

ある程度幅を広げて複数国へプロモーションするのか?それとも絞り込んで一極集中させるのか?

一極集中するにしてもすでに市場が大きい中国を狙うか?それともまだ競争の少ないASEANの国々を狙うのか?

 

採択される戦略は自治体や企業によって異なりますが、皆さん共通して考えられているのは「どうにか効率的にできないか」ということでしょう。

 

言語の最適化だけの限界

そしてまず訪日インバウンドプロモーションの第一歩として考えられるのが、「とりあえず今手元にある情報を英語で発信しよう」ということです。

Harvard Business Reviewによれば非ネイティブまで含むと英語を話す人間の数は17.5億人にまで膨れるそうです。さすが世界の公用語。これは必ず取り組まねばならないでしょう。

 

その次に「市場の大きい中国向けに中国語も準備しよう」という流れになります。

そしてさらに韓国語を用意し、タイ語を用意し、インドネシア語を用意し…というように進んでいくのではないでしょうか。

 

そしてある程度近隣国の言語をカバーできたとします。多言語で情報発信もしているし、Webサイトやパンフレットも完備している。

 

ただ、受動的なツールのパンフレットはともかく「情報発信」という視点で考えるとこれだけでは不十分です。

 

コミュニケーションの基本は「誰に」「何を」「どうやって」

観光インバウンドでも商品プロモーションでも、B2Bのコーポレートブランディングでも、プロモーションを展開する際の基本は「誰に」「何を」「どうやって」伝えるのかを考えることです。

 

前述の「言語の最適化」の話で何が足りないのかというと、「何を」の部分が足りていません。

少なくとも「情報発信」という部分ではあまり機能しないでしょう。

 

「訪日外国人向け観光情報サイト」について考えてみるとわかりやすいです。

 

訪日観光トレンドを背景に、今やたくさんの外国人向け観光情報サイトが生まれています。最初は英語で発信するメディアがほとんどでしたが、最近は「多言語」に対応したメディアも増えてきました。

もちろん中には「インドネシア語」に対応したメディアもあります。

ただ、肝心のインドネシア人たちが実際にそれらの情報メディアを使っているか、というと「少なくとも今のところはそうでもない」と感じます。

定性的な話ではありますが、使われている様子は現場からはあまり感じません。

 

インドネシアに住んでいると訪日を予定している友人たちから相談を受けることが多々あります。

以前興味本位で「今はこういうWebサイトがたくさんあるから参考にすればいいじゃないか」と数名に教えてみたことがあります。

ただ、ほとんどの場合であまり良い反応はありませんでした。

中にはハッキリ「私向けの情報じゃない…」と言う方もいました。

 

自分たち日本人の状況に当てはめればよくわかる

この「私向けの情報じゃない」というのをもう少し深堀してみたところ、「これは日本人が発信したい情報を発信しているだけで、私たちインドネシア人向けの情報じゃないでしょ?」ということでした。

シンプルな意見ですがとても重要な考え方だと思います。

我々日本人に当てはめてみればよく理解できます。

 

少し例え話を出します。

 

東アジア三国同時に同じ内容でプロモーションはできるか?

例えばどこかのエリアや商品をアジア全域にプロモーションしている海外都市や外国企業があったとします。

発信する情報は充実していたとして、同じ内容を「中国語」「韓国語」「日本語」で発信した場合に我々日本人の興味を惹くことはできるでしょうか?

当社は「難しい」と思います。

確かにアジア以外の方々から見れば、「中国」「韓国」「日本」は髪の色も肌の色も一緒。共通して顔の凹凸も少なく同じにように見えるかもしれませんが、文化も違えば好みも違います。

同じものを見せられても感じることが違うのは容易に想像できると思います。

 

イタリアに行くときにイタリア人が発信しているメディアや情報を参考にするか?

さらに海外旅行のケースを考えるとわかりやすいかもしれません。

例えば「イタリア」に行く計画を立てるとします(他の国でも構いません)。

皆さんはイタリアに行くときに「イタリア人が作っているイタリア情報サイト」を参照するでしょうか?

イタリア官公庁が発信している公式情報程度は見るかもしれませんが、一企業が運営しているイタリア情報サイトから重点的に情報を取ろうとする人は多くはないでしょう。

それよりも、私たちが必要とするのは「イタリアに住んでいる日本人」や「イタリアを旅行した日本人」が発信する情報ではないでしょうか?

同じ日本人の視点で情報選定されているため、私たちが欲している情報がある可能性が高いからです。

 

東南アジアは一つの国ではない

わかりやすく東アジアの例を出しましたが、同じく東南アジアにも様々な国があります。そして国の分だけ文化があり、宗教も違えば好みも変わってきます。

理想を言えば「その国に合わせた情報の最適化が必要」ということになります。

訪日経験済のインドネシア人と話すと、不思議と私たち日本人も知らないような場所を訪れていたりします。私からすると「なんでそんなところに行くの?」とう感覚なのですが、彼ら彼女らにはそこを訪れたくなる理由があるのです。

一方で情報発信側のリソースには限りがあります。すべての国、すべてのエリアに100%のリソースを投じることはできないでしょう。

リソースの効率化も考えつつ、情報の最適化をどう図るのか?

当社はインドネシアの現場から、インドネシア人とチームを作りながら最適解をお客様と目指していく所存です。

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