最終更新日 2026年5月21日
インドネシアでの訪日プロモーションを検討している日本企業の担当者の方、特にインドネシアの旅行代理店へのセールスコールを視野に入れている方に向けた参考情報として、この記事を書きました。
インドネシア向けの訪日プロモーションを始めようとするとき、「どの旅行代理店にアプローチすればいいのか」という壁に最初にぶつかる方は多いはずです。ネットで検索しても出てくるのは横並びの会社概要ばかりで、実際の温度感や各社の特徴はなかなか見えてきません。
当社は観光レップ業務を通じて、インドネシアの主要旅行代理店を定期的に訪問しています。この記事では、そうした現場での接点を踏まえながら、訪日旅行を扱う大手5社をご紹介します。
「FIT全盛時代」でも旅行代理店が重要な理由
インドネシア人の訪日旅行スタイルは、ここ数年で大きく変わっています。観光庁の2025年訪日外国人消費動向調査によれば、インドネシア人訪日客の88.6%がFIT(個人旅行)です。この数字を見て「もう旅行代理店は関係ない」と感じた方もいるかもしれません。正直なところ、代理店側もB2C市場の縮小は感じており、現場での会話でもその空気は伝わってきます。
ただ、「FITが主流=旅行代理店不要」という図式は、インドネシアの実態とは少しずれています。
インドネシア人の旅行計画には独特のパターンがあります。まずショッピングモールで開催されているトラベルフェアに立ち寄り、格安の航空券を先に押さえる。有給の調整は後からして、旅行の詳細はそれからゆっくり詰めていく——という流れです。ジャカルタのショッピングモールでは今でも頻繁にトラベルフェアが開かれていて、いつも人でにぎわっています。「旅行代理店を通じてパッケージを売る」というモデルは確かに変化していますが、代理店が消費者と持つ接点そのものはまだ生きています。
もう一点、見落とされがちな視点として、B2B市場での旅行代理店の存在感があります。インドネシアでは業績の好調な企業が社員やビジネスパートナーを訪日旅行に招待する、いわゆる報奨旅行やインセンティブツアーの文化が根付いています。日本のバブル期のような「社員旅行」に近いイメージですが、ビジネスにおけるギャザリング——チームの結束を高めたり、パートナーへの感謝を示したりする場として旅行を活用する慣習は、インドネシアに今も強く残っています(ちなみに、飲み会の文化はないですが)。こうしたMICE・報奨旅行の文脈では旅行代理店がB2Bの窓口として機能しており、この領域はFITの波をほとんど受けていません。
インドネシアの訪日市場における旅行代理店の役割については、以下の記事でもデータを交えて整理していますので、併せてご覧ください。
訪日旅行に強い大手5社——それぞれの特徴と立ち位置
Panorama JTB——日本とインドネシア、両拠点の視点を持つ唯一の存在
Panorama JTBは、インドネシアの大手上場旅行グループPanorama Sentrawisata(BEI上場)の子会社であるPanorama Tours Indonesiaと、日本のJTBコーポレーションが2017年に合弁して誕生した会社です。インドネシア国内に53拠点・24都市という広いネットワークを持ち、法人・個人旅行の両方をカバーするトラベルマネジメント企業として業界内での認知は高い会社です。
最大の特徴は、JTBとの合弁という構造そのものにあります。現地旅行代理店として訪日商品を扱うだけでなく、日本のJTBコーポレーションのグローバルネットワーク(101都市・37カ国・520拠点)と連動した取り組みを、日本とインドネシアの両拠点の視点から設計できる——これは他のインドネシア系旅行代理店には真似のできないポジションです。日本側の旅行会社・観光事業者との連携を念頭に置いた場合、Panorama JTBはインドネシア単体の代理店というより、日本とインドネシアをつなぐ接続点として捉えた方が実態に近いといえます。
現場での印象として付け加えると、訪日旅行への優先順位の高さは他社と比べても際立っています。JTBとの合弁という背景がそうさせているのか、「日本旅行といえばPanorama JTB」というポジションへの強い意識が、組織全体から伝わってきます。
Golden Rama——老舗が仕掛けるプレミアム路線
Golden Ramaは1971年の創業で、British Airwaysの代理店としてスタートし、1991年以降はインドネシアを代表するトップ10の旅行代理店の一社として業界内での地位を確立してきた老舗です。ジャカルタをはじめ、バンドン、スラバヤ、デンパサール、マカッサルなどインドネシア主要都市に拠点を構え、B2CとB2Bの両領域をカバーしています。
長年にわたって幅広い旅行商品を手がけてきた会社ですが、当社が毎年訪問する中で近年感じているのは方向性の変化です。担当者との会話の中に、「プレミアムな体験」「限定感のある旅」へのシフトが色濃く表れています。量を売るより、一つひとつの旅行の付加価値を高めていく方向性が、ここ数年で明確になってきた印象です。実際、公式でも南極クルーズやプライベートジェットを使ったアークティック旅行など、富裕層向けのラグジュアリーツアー部門を立ち上げており、単なる老舗から「高付加価値路線の老舗」への転換を図っています。
日本側のデスティネーションやアクティビティを訴求する際も、「ここでしか体験できない」という希少性や独自性を前面に出すアプローチが、Golden Ramaとの文脈では刺さりやすいといえます。
Dwidaya Tour——組織力と富裕層への目配りが光る
Dwidayatourは1967年創業で、60拠点以上をインドネシア全国に展開する老舗の大手です。バリ・ジャカルタ・ジョグジャカルタ・メダンなど主要都市に幅広く根を張っており、規模・歴史ともにインドネシアを代表する旅行代理店の一社です。
打ち合わせに行くと、様々な役割を持つ担当者が複数出てきます。マーケティング担当、商品企画担当、営業担当——それぞれがしっかりとした役割分担を持ち、機能が細分化されています。「大手感」という言葉で片付けてしまうのは少し粗いですが、分業が整ったプロフェッショナルの集団として機能しており、提案や交渉においても話が噛み合いやすい相手です。
特筆したいのが、自社トラベルフェアの積極的な開催です。「日本」をテーマにしたトラベルフェアも手がけており、日本デスティネーションとの親和性の高さがそこに表れています。また、年間利用額の高い顧客を独自にセグメント化し、富裕層へのアプローチを強化する仕組みを持っている点も重要です。「富裕層インドネシア人に日本を売りたい」という文脈では、Dwidaya Tourは有力な接点になり得ます。
Bayu Buana——インドネシア初の上場旅行代理店、ユニークな商品発掘力
Bayu Buanaは1972年創業で、1989年にインドネシアで初めて株式上場を果たした旅行代理店です(IDX:BAYU)。旅行業界の中でも長い歴史と透明性の高い経営体制を持つ会社として、業界内での信頼は厚い存在です。
その商品開発力について、印象的なエピソードがあります。2023年、当社が神戸市の観光レップ業務として主要旅行代理店を訪問した際のことです。複数の旅行代理店を回ったなかで、「神戸」をメインテーマにしたツアーを実際に販売していたのはBayu Buanaだけでした。しかもその商品は布引ハーブガーデンを組み込んだもので、神戸の中でも観光客に広く知られているとは言えないスポットをフィーチャーしていました。
そのツアーは現在は販売されていませんが、このエピソードが示すのはBayu Buanaが「メジャーではないデスティネーションや体験」への感度を持っているということです。大手旅行代理店が東京・大阪・京都に集中しがちな中、地方や中規模都市のプロモーションを検討している担当者にとっては、特に注目しておきたい会社です。
Smailing Tour——MICEと富裕層、二つの顔を持つ老舗
Smailing Tourは1976年にRudy Akiliが航空券代理店としてスタートし、現在はジャカルタに8拠点を構える老舗グループです。創業から約50年をかけてグループを拡大し、インバウンド向けDMCのSmailing DMC(1986年設立・バリ拠点)、法人向けトラベルマネジメントのSmailing TMC(2007年設立)など複数の事業会社を傘下に持ちます。
この会社には二つの顔があります。一つは、MICEや法人向け報奨旅行への強みです。企業の出張・インセンティブツアーの領域で実績を積んでおり、日本への団体招待旅行や社員旅行といった文脈でのアプローチが機能しやすい会社です。もう一つは、富裕層個人向けのサービスです。「Smailing Platinum」という会員制VIPプログラムを展開しており、高額利用者に対するパーソナライズされたサービスを強みにしています。B2Cの訪日旅行プロモーションより、富裕層向けの特別な日本体験を提案したい場合の接点として機能する会社です。
まとめ——狙いによって「使い分ける」という発想
5社を並べてみると、それぞれに異なる背景・歴史・得意領域があることがわかります。また、本記事で紹介した5社以外にも多数の旅行代理店が存在しています。「どこが一番いいか」を一概に言い切るのは難しいのが正直なところです。旅行代理店ビジネスは最終的に担当者との関係性や営業のタイミングに左右される部分も大きく、会社のプロフィールだけで判断するには限界があります。
まずはここで紹介した各社の特色を踏まえた上で、自社のプロモーション目的やターゲットと照らし合わせながら、アプローチ先を絞り込んでいくのが現実的な進め方です。
インドネシアの旅行代理店へのアプローチや現地でのプロモーション設計についてお悩みの方は、JAPASIANにご相談ください。観光レップ業務を通じた現地旅行代理店とのネットワークを活かし、貴社の状況に合ったアプローチを一緒に考えます。

















